部門紹介
当科は昭和34年より心臓手術を開始しており、全国的にも歴史のある施設のひとつです。日本胸部外科学会指定施設、心臓血管外科専門医認定機構認定修練施設、ステントグラフト実施施設などに認定されています。当科のスタッフは現在8名(うち心臓血管外科専門医5名、同修練指導医2名、ステントグラフト実施医3名、同指導医1名)で、少ないスタッフで先天性心疾患、虚血性心疾患、弁膜症、大動脈瘤および末梢血管疾患と多岐に渡る循環器疾患手術を行っています。平成30年1年間の全手術約700例、心臓・大動脈手術約550例は全国でも有数で、特に大動脈手術が増加しています。新生児から90歳以上の超高齢者に至る幅広い症例の手術を行っていることが当科の特徴で、大学病院以外の市中病院では数少ない施設のひとつです。
先天性心疾患の手術成績は単純心奇形(心房中隔欠損症や心室中隔欠損症など)と同じく、複雑心奇形(ファロー四徴症、房室中隔欠損症、大血管転位症など)や重症例も良好です。岡山大学には及ばないものの、左心低形成症候群に対するノルウッド手術の成績も安定し、二期手術、三期手術と成功例が増加しています。これは循環器小児科、麻酔科の協力なしでは得られない結果です。心房中隔欠損症に対する右開胸による手術を積極的に行い、前胸部に手術創が残らないため患者様やご家族に大変喜ばれています。また大動脈弁狭窄症小児3例に大動脈弁再建術(自己心膜を用いた尾崎法)を行い良好な経過です。
後天性心疾患の手術成績も安定しています。虚血性心疾患の単独冠動脈バイパス術は減少傾向にありますが、重症例の占める割合が増加し、そのため心拍動下手術(低侵襲手術)が3割の状況です。弁膜症手術は増加傾向で、経カテーテル的大動脈弁留置術(低侵襲手術)の増加に依るところが大きいようです。大動脈弁置換術、僧帽弁形成術やメイズ手術(心房細動に対する手術)が手術の中心で、複数弁手術や冠動脈バイパスを併せ行う複合手術が増加しています。また、成人例でも前述の尾崎法の準備を計画しています。症例によっては右開胸による開心術(低侵襲手術)を考慮しますが、手術が安全に行える胸骨正中切開を第一選択としています。
血管疾患のうち大動脈疾患に対する手術数の増加が著しく、特に胸部大動脈手術は10年前の3倍以上に増加し、手術成績も良好で全国的にも有数です。また胸腹部大動脈瘤に対する手術数も多く、特筆すべきことです。約15年前に胸部広範囲動脈瘤に対する手術方法(ALPS法)を考案・学会発表し、他施設でも行われています。低侵襲手術である胸部および腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術も増加し、この10年間に1000例を越えました。従来は手術適応とされなかった高齢者や他臓器の合併症症例が適応となりますが、特に重症胸部大動脈瘤症例では低侵襲と安全性を考慮して、ステントグラフト内挿術と人工血管置換術を併せ行うハイブリッド手術も行っています。末梢動脈疾患は血管内治療(ステント留置、循環器内科施行)が治療の主体となりつつあり、末梢動脈用ステントグラフトが29年より使用可能となっており遠隔期成績が楽しみです。しかしながら外科的血行再建術が必要となる症例も少なくありません。
ハイブリッド手術室が27年4月より稼働開始し、ステントグラフト内挿術がより安全に行うことが可能となりました。また経カテーテル的大動脈留置術も27年12月より開始しています。30年1年間は69 例の患者さんに行い、累計180例を越えています。これまでに1例大動脈基部破裂を合併しましたが、緊急で大動脈基部置換術を行い、救命可能でお元気に独歩退院されました。これも病院の総合力の結果と思われます。その他の症例は大きな合併症なく経過しており、従来開心術の適応とならなかった患者さんが短期間に回復されています。危険と背中合わせの治療法ではありますが、患者さんの福音になっており、今後も月6~7例のペースで行う予定です。
医療全般に低侵襲治療の流れであり、心臓血管外科領域も同様の傾向です。低侵襲治療であっても治療の質を落としてはならす、患者様に最適な治療を考え、日夜努力しています。経カテーテル的僧帽弁形成術など新しい治療方法に取り組む予定です。
最後になりましたが、貴重な手術症例を紹介していただいた諸先生方にお礼を申しあげます。立地条件の良さや、歴史ある施設であることの有利性に甘えることなく、患者さんに最良の手術・治療を受けていただけるように努力いたしますので、今後とも宜しくお願いいたします。(吉田 英生)