対象疾患
肺癌、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、重症筋無力症、気胸、肺嚢胞症、胸膜中皮腫など多岐疾患にわたって診療しています。(手掌多汗症については現在、診療をおこなっておりません。)
肺癌に対する診療内容
1. 手術療法
2. 化学療法(呼吸器内科と提携しております)
3. 放射線治療(放射線科と提携しております)
1. 手術療法
以前は後側方開胸という約30~40cmの大きな創で直接臓器を視ながら行うのが一般的でした。1994年に胸腔鏡手術が保険適用となり、2000年には肺癌に対する胸腔鏡手術が保険適用になることにより、近年は胸腔鏡を使用した手術が主流となっています。当院では早期から胸腔鏡手術を導入しております。手術侵襲(身体への負担)ができるだけ少ないほうが、回復が早く、合併症も少なくなるため、当院では90%以上の患者さんに胸腔鏡を使用した手術を行っております。また、2018年に保険収載された『ロボット支援手術』を導入し、さらに低侵襲な手術を提供しております。
手術侵襲を決める要素として、アプローチ法(創の大きさ、胸腔鏡手術・ロボット支援手術など)、切除方法(切除する肺の大きさなど)があります。たとえば、創が小さくても、切除する肺が大きければ、肺機能は損なわれますし、切除する肺が小さくても、大きな創で行えば、身体への負担は大きくなります。ここでは、アプローチ法と切除方法に分けて、解説いたします。
手術のアプローチ法に関して
A. ロボット支援手術
手術支援ロボットは、“ダ・ヴィンチXiシステム”です(写真1)。このシステムは米国のインテュイティブ・サージカル社が開発し、欧米で先行して医療機器として認可され、1997年より海外の手術の現場で使用されています。日本では2009年に医療機器として国の薬事承認(医療機器としての使用を厚生労働大臣が許可すること)され、2012年4月には前立腺癌に対するロボット支援手術が保険収載されました。呼吸器外科領域では、2018年4月に肺癌、縦隔腫瘍に対するロボット支援手術が保険適用となり、当科では2019年より導入しております。ロボット支援手術は十分な訓練を経て認定を受けた医師のみが行うことができ、器械自体にも正常な動作を維持する機能が数多く備わっています。
非常に小さい穴(8mm程度)を4か所と約2cm程度の小さい創で行います。小さい創は、助手がサポートしたり、切除した臓器を取り出したりするために使用します。従来の胸腔鏡手術と異なり、手術する執刀医(コンソール術者)は、患者さんから離れた場所で手術操作を行います。術者は3次元の立体映像を見ながら、3本のアームに装着した手術器具を駆使して行います(写真2)。手術支援ロボットの特徴は、①3次元立体化の拡大視効果、②手振れ防止機能、③多関節機能(人間の手では現わせない動き) などにより、より精細な手術を行うことができます。開胸下肺葉切除術と比較して術中出血量が有意に少なく、かつ治療成績は開胸手術と同等の癌制御(再発防止)が得られることが欧米を中心に報告されています。
2020年4月の時点で、ロボット支援手術が適応となる手術は、肺癌に対する肺葉切除および区域切除、良性縦隔腫瘍摘出術、悪性縦隔腫瘍摘出術、重症筋無力症に対する拡大胸腺摘出術となっております。
手術担当:藤原 俊哉(ロボット支援手術サーティフィケート取得医師・国内A級Robo Doc certificate取得・呼吸器外科学会認定ロボット支援手術プロクター)
写真1. 手術支援ロボット(da Vinci Xi TM) 左:ペイシェントカート, 右:コンソール
写真2. ロボット支援手術 手術風景
B. 完全胸腔鏡下手術
主に3~4cmの創1か所と1~2cmの穴2~3か所で行います。すべて胸腔鏡でみる〈2次元、モニター視〉で行います。従来の開胸を伴う手術より創が小さくなっています。
C. 胸腔鏡補助手術
4~8cmの切開で小さな開胸を行います。胸腔鏡で観察するために約2cmの穴2か所追加して行います。切開創から直接視る〈直視〉と胸腔鏡でみる〈2次元、モニター視〉を併用して行います。ハイブリッド胸腔鏡手術とも呼ばれますが、当院では約20年前から行っている旧式の胸腔鏡手術です。
D. 開胸手術
当科で行う開胸手術の多くは8~15cm程度の切開で行います。2000年以前、標準的開胸法であった後側方開胸(背中から前胸部まで約30~40cmの切開)は、近年非常に少なくなっております。
写真3. 術後(肺葉切除)の創の比較
※ご注意
すべての患者さまがロボット支援手術や完全胸腔鏡下手術の適応となるわけではなく、進行度や併存症を検討して慎重に手術方法を決定いたします。
肺の切除方法に関して
1.肺癌の標準的な手術術式は、肺葉切除+リンパ節郭清です。ただし、完全切除をするために、2葉切除や1側肺全摘除を行うこともあります。しかし、なるべく全摘を避けるように、気管支形成術や肺動脈形成術を症例に応じて行っています。当院の強みとしては、総合病院であることから、心臓血管外科などの他診療科と協力しあって、高難度手術も行うことができます。
2.近年の画像診断技術の向上に伴い、径2cm以下の末梢部小型肺癌や胸部単純X線撮影では写らないすりガラス影が早期発見されるようになりました。これに対して、肺葉切除が可能な人(大きく切っても大丈夫な体力の人)に対して、肺機能を温存した区域切除術という「積極的縮小手術」を行っています。機能を温存しながら、根治性も損なわないという手術方法です。2022年に本邦で行った、臨床試験の結果が公表され、小型肺がんに対して、区域切除の方が肺葉切除に比べ、全生存率が有意に良好であったことが示されました。
3.すりガラス影主体のごく早期の肺がんや併存疾患や低肺機能などの患者さんの場合、手術侵襲をさらに小さく切り取る方法として、楔状部分切除術を行っています。
4.進行癌(大きい腫瘍、リンパ節転移の明らかな腫瘍など)の場合には、術前化学療法あるいは術前放射線化学療法を行い、病巣を小さくしてから切除を行うという治療のオプションがあり(写真4)、適応を慎重に検討し決定しております。
写真4.術前放射線化学療法
肺癌の治療成績
当科での2010~2015年肺癌切除例における術後生存率を示します。
図2. 当科における肺癌手術成績(2010-2015,1182例)
高齢者肺癌の治療
近年、高齢化社会となり、80歳以上のご高齢の患者さんが増えております。肺癌も例外ではありません。また、元気な80代の人が増えているのも事実です。80歳という暦年齢だけではなく、“からだ年齢”を十分に評価したうえで、治療法を検討しています。その結果、80歳以上の人の手術件数は年々増えており、全手術例の約12%を占めています。
気胸
自然気胸(特発性気胸、続発性気胸)は、何らかの原因で肺に穴があき、胸腔(胸の器のなか)に空気が漏れて貯まる病気です。10~20歳代、70歳代の男性に多いです。急激に症状が出てくることがほとんどです。なかでも、緊張性気胸(胸のなかの圧が異常に高まる状態)は、緊急処置が必要な危険な状態です。
再発を繰り返す場合、空気の漏れが止まらない場合、出血を伴う場合、などには手術を行っております。手術は99%に胸腔鏡下手術を行っています。術後平均約3日での早期退院が可能になっています。
転移性肺腫瘍
転移性肺腫瘍の手術適応については、原発腫瘍(もとになっている癌)によって、検討する必要があります。手術を行う場合は、機能をできるだけ温存するよう肺部分切除を基本とし、可能なかぎり胸腔鏡手術を行っています。
縦隔腫瘍・胸腺関連疾患
縦隔腫瘍としては、前縦隔に発生する胸腺腫が最も多いですが、他に胸腺癌、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、神経原発性腫瘍など多岐にわたります。疾患ごとに治療方針を検討し決定しております。また、特殊な疾患として、重症筋無力症があります。この疾患は自己免疫疾患で抗アセチルコリンレセプター抗体という抗体ができ、筋肉の膜のアセチルコリンレセプターに結合するために筋力が弱くなります。この抗体がつくられるのに胸腺が係わっていることが多く、胸腺組織とその周囲の脂肪組織を広汎に摘出することで治癒を目指します。
臨床試験
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、瀬戸内肺癌研究会(SLCG)、岡山大学呼吸器外科研究グループ(OUTSSG)に施設登録しており、臨床試験に参加しております。
最後に
当科外来は東棟2F、病棟は呼吸器(外科、内科)ゾーンとして、中央病棟7階にあり、北側病室からは広島城が見え、風光明媚です。われわれスタッフは、毎週水曜、木曜の早朝に術前・術後のカンファレンスおよび抄読会を行い、治療方針の検討や医療知識のアップデートを行っております。また、毎週月曜、金曜の早朝に外科合同カンファレンスに参加しています。(表)現在、コロナ禍のため、一部休止しております。
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月
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火
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水
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木
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金
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外科合同
カンファレンス
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呼吸器術前・術後
カンファレンス
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呼吸器抄読会
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外科合同
カンファレンス
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参加
診療科
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外科
乳腺外科
呼吸器外科
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呼吸器内科
呼吸器外科
放射線治療科
腫瘍内科
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呼吸器内科
呼吸器外科
腫瘍内科
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外科
乳腺外科
呼吸器外科
放射線科
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そのほか、学会活動、論文執筆も積極的に行い、一人でも多くの呼吸器疾患に悩む患者さんが元気になっていただけるよう、ハイレベルな診療を提供すべく日々努力しております。