循環器小児科の概要
小児循環器領域においては2008年度から専門医制度が導入されました。当科はその修練施設として認定されており多くの症例の診療にあたっています。循環器小児科の診療対象は先天性心疾患、小児期の不整脈・心筋症・心筋炎・肺高血圧、川崎病、そして成人期に至った先天性心疾患などがあります。このうち最も症例数が多いのは小児、及び成人の先天性心疾患です。当科で多岐にわたるカテーテル治療を行っていること、また診断および術前管理を行った症例を当院の心臓血管外科において手術を行い、当院内で治療が完結できる環境にあることから、広島県内に限らず西中国地方の広い地域から患者さんが集結しています。
先天性心疾患のカテーテル治療に関しては、近年目覚ましく進歩しており、外科手術ではなくカテーテル治療できる疾患の幅が広がり、治療症例が増加しています。当院は心房中隔欠損、動脈管開存に対するデバイス閉鎖術、及び高度の肺動脈弁閉鎖不全に対するカテーテル的肺動脈弁置換術の認可施設となっており、県外からも患者さんが集まってきています(いずれも広島県内で当院のみ)。このほかにも狭い血管や弁を拡げるバルーン血管形成術、ステント留置術や、余分な血管を閉塞するコイル・デバイス塞栓術など、年間100-125例のカテーテル治療を行っています。
また、胎児期に心疾患を診断する胎児心エコー検査も年間60-80例行っており、胎児心エコー専門施設に認定されています。
成人先天性心疾患の診療は近年特に需要が高まっている領域です。手術成績の向上により、新生児~小児期に修復手術を受けて成長し、成人期に達することができる患者さんの数が増加してきているためです。成人期には成人特有の問題(成人病や産婦人科的問題など)が絡んでくることもありますし、またいったん修復されていた心臓病変の再度の悪化・残っていた病変による状態悪化なども生じることがあります。そのためにカテーテル治療や再手術が必要になることも少なくありません。一方、もともと持っていた先天性心疾患を成人期になって初めて診断されること(特に心房中隔欠損など)も稀ではありません。このような患者さんを、成人を診療する各科、成人の心臓病を専門とする循環器内科と連携を取りながら診療、治療にあたっています。当院は連携専門施設認定されており、当科には専門医が2名在籍しています。水曜日午後(片岡)、木曜日午後(中川)に専門外来を開設しています。
循環器小児科で行う主な検査
心エコー検査
心臓・血管の構造、機能などを体の外から体に負担をかけることなく評価することが可能な検査であり、最も基本的かつ重要な診断方法です。心臓は動いている臓器なので、心臓の機能を正確に診断するには体は安静にじっとしておいてもらう必要があります。このため新生児~乳児は眠っている間(場合によっては鎮静薬を投与して眠っている間)、幼児ではDVDなどを見ておとなしくしてもらっている間に検査をします。
胎児心エコー検査
近年、産科領域でのスクリーニング(基本的検査)が幅広く行われるようになり、診断症例が増加している検査です。対象になるのは、産科のスクリーニングで心臓の異常が疑われた場合、心臓外に胎児水腫、消化管閉鎖などの問題が見つかった場合、先天性心疾患の家族歴がある場合などです。エコー(超音波)は骨の部分を通過できないため、胎児の場合は赤ちゃん自身の肋骨、肩甲骨、背骨などがじゃまになって詳細がすべては見えないこともあります。また細い血管異常などは小さすぎて見えないこともあります。しかし近年では技術が向上したことによりすぐに治療が必要になる症例のうち7割以上を胎児期に診断することができています。出生直後から安全に管理することで治療成績の向上につながっています。当院は胎児心エコー検査の認証施設に認定され、循環器小児科には胎児心エコー認証医の資格を持つ医師が2名在籍し診療にあたっています。診断した内容について、出生後の計画を含めて知り得た限り全ての詳細な説明をすることになるため、初めての診察の際にはご夫婦そろって受診してください。
12誘導心電図
手足に4か所、前胸部に6か所の電極をつけ、安静時に心臓の筋肉細胞(心筋細胞)が興奮・収縮する際に発生する微細な電流を心電計で記録したものです。検査中に痛みはありません。不整脈の他、心臓の負荷(圧、容量)、心筋の異常、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)などの異常について情報が得られます。
トレッドミルテスト
最も信頼性の高い運動負荷テストです。ベルトコンべアの上に乗り、3分ごとに傾斜がきつく、スピードが速くなっていきます。不整脈の発生状況、虚血性心疾患の重症度判定の他に運動耐応能なども評価でき、運動許容域をきめるにも重要な検査です。検査時には着替え、運動靴などが必要です。
ホルター24時間心電図
24時間連続して装着し、1日の中での心電図の変化をみる検査です。睡眠中の不整脈、昼夜の不整脈の出現頻度の差などを見るのに適しています。小さな機器を身につけた状態で記録しますが、運動を含めた通常通りの生活の中でどのような場合に不整脈が出現しやすいのか見極める検査です。最近の機器ではシャワー浴中の記録も可能になり夏場の検査が楽になりました。
心臓CT検査
心臓、血管を見るためのCT検査では、手(時に足)の点滴ラインから造影剤を注入して撮影します。体が動くと画像がぶれて不鮮明になるため、撮影中は動かずにいる必要があります。このため乳幼児では鎮静剤を投与し眠った状態で検査をします。コンピュータ解析で3D画像を作ることができ、特に血管系の評価に優れています。気管、肺内の情報が得やすいことも利点です。心房中隔欠損症などで肺静脈の還流をチェックする場合、新生児、乳児の大動脈縮窄症、肺動脈閉鎖症、血管輪、再ラステリ手術時、成人の動脈管開存、そして川崎病後遺症(冠動脈瘤・狭窄)などが良い適応となります。
MRI検査
非常に強力な磁気を用いて(放射線の被ばくなしに)血管、心内構造、心機能、心筋などの評価ができる検査法です。検査に比較的長い時間がかかる(長いものでは1時間程度)こと、大きな音が発生することから乳幼児では鎮静剤を投与して眠った状態での検査となります。右心室の容量や、弁逆流の量、短絡量などを計測することができ、手術やカテーテル治療の必要性や効果を判断するのに有用です。また心筋の状態を判断するのにも役立ちます。体内に金属(鉄)が入っている場合、検査ができない、もしくはきれいな画像が得られない場合がありますので検査前に申し出てください。
RIシンチグラフィー
小児循環器領域では、肺血流シンチ、心筋シンチが主なものです。手(もしくは足)の点滴ラインから放射性物質を注入して撮影します。肺血流シンチでは肺の血流分布の状況、肺動脈の閉塞(血栓・塞栓による)などを評価するため、肺動脈閉鎖症の術後や、肺動脈性肺高血圧などが検査対象になります。心筋シンチは心筋の血流分布異常、虚血の有無、重症度などを検査でき、川崎病、その他の虚血性心疾患、心筋症などが検査対象となります。この場合、薬物負荷を行い心筋のダメージの程度を評価します。
心臓カテーテル検査・心血管造影検査
これはいわゆる侵襲的な検査法です。足の付け根の大腿動脈・静脈にシースという弁付きの管を挿入し、その管を通じてカテーテルという細く長い管を心臓や大血管まで送り込み、心臓の各部屋・各血管の圧や酸素飽和度を測定します。この値を用いて心臓・血管内にどの程度の孔・交通があるか、どの程度動脈血と静脈血が混じりあっているか、どの程度弁・血管が狭いか、どの程度肺血管抵抗が高くなっているか(肺の血管が硬くなっているか)などを計算することが可能です。また、心血管内に造影剤を注入することにより、孔の大きさ、心内の部屋・血管の大きさ・形などを実際にみることが可能です。検査のみの場合3日間の入院、治療が加わってくると4-7日間の入院が必要です。