婦人科疾患
悪性腫瘍
子宮頸癌
子宮頸がんは、ゆっくり進行するのが特徴で、若年層で増えています。検診を受ければ、前がん病変で見つかることが多いです。
前がん病変である上皮内腫瘍(CIN)にはⅠ、Ⅱ、Ⅲがあります。CINのⅠとⅡは経過観察で、Ⅲ(高度異形成と上皮内がん)から治療の対象となります。子宮頸部を円錐形に切り取る手術が主流です。この手術は早期子宮頸がん「IA1期」(深さ3㎜まで)でも可能。妊娠・出産もできます。閉経後の人は、子宮頸部円錐手術では、その跡が見えにくくなり、その後の検診がしにくくなるため、子宮を取るケースもあります。この場合、子宮全摘(単純子宮全摘)になります。
IA2期(深さ5nmm以上)-Ⅱ期(子宮頸部をやや超える)では、子宮と膣の一部、骨盤内のリンパ節を含めて広範囲に切除する広汎あるいは準広汎子宮全摘手術を行います。
従来は「Ⅱ期」までは手術をしていましたが、放射線療法(X線などの放射線を照射して、がんを攻撃する方法)に化学療法をプラスした化学放射線療法(CCRT療法)の成績がよくなったため、「Ⅱ期」に関しても、この療法を行う施設が増えています。抗がん剤としては「シスプラチン」が標準になっています。この療法によって、「Ⅲ期」でも良好な成績を収めています。
子宮体癌
最近増えているのが子宮体がんです。赤ちゃんを育てる子宮の内側を覆う内膜に発生するがんです。体がんの割合が増えている要因として、食生活の欧米化や脂肪の摂取量の増加を挙げる人もいます。
この子宮体がんは、月経時以外の出血やおりものが大きな手掛かりです。このためいつもと違う出血があれば検査を受けましょう。 この子宮体がんは、女性ホルモンと関係が深いがんで、妊娠経験のない人や無排卵などの排卵障害のあった人、肥満や糖尿病、高血圧の人もホルモンバランスの崩れによって、子宮体がんになりやすいとされています。
がんが子宮体部にとどまっている「IA期(筋層の半分まで)」「IB期(筋層の半分を超える)」と、子宮頸管に進展している「Ⅱ期」「Ⅲ期」「Ⅳ期」に分かれます。子宮体がんは「ⅠA期」のケースが多く、指定施設なら保適用で腹腔鏡手術ができます。「IA期」までなら切除するのは子宮と卵巣卵管、骨盤リンパ節です。
また2018年4月からは、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使ったロボット支援下手術も保険適用となりました。患者さんにとっては、ロボットの方がより緻密な操作が可能なため、出血は少なく、痛みも少ないですが、やや時間はかかります。
進行していたら化学療法と手術の併用になります。化学療法は、パクリタキセルとカルボプラチンを使用します。「MSI-High固形がん」に対して免疫チェックポイント阻害剤が、最近保険適応になりました。子宮体癌はその頻度が高く、再発後に化学療法を行なっても効果がない場合に現在期待されている治療の一つです。
前がん状態の異型子宮内膜増殖症では、子宮温存の希望がない場合は子宮全摘手術になります。一部の初期がんに対しては、ホルモン療法により子宮を温存した治療が可能な場合もあります。
卵巣癌
卵巣がんは、がんが卵巣内に限局する「Ⅰ期」骨盤内に進展している「Ⅱ期」、骨盤外に進展している「Ⅲ期」、遠隔転移している「Ⅳ期」に分かれます。
代表的な卵巣がんは進行が早いのが特徴です。検査した時点では異常がなくても、半年後は症状が進んでいることもあります。下腹部にしこりや圧迫感があるなどの症状があって受診した時、すでにがんが進んで「Ⅲ期」になっていることもあります。ただし、初期で見つかる種類の卵巣がんもあります。
代表的な卵巣がんは「Ⅲ期」で見つかることが多いので、治療は抗がん剤と手術の組み合わせになります。手術を先にする場合と、抗がん剤を先にする場合があります。抗がん剤は、パクリタキセルとカルボプラチンの併用(TC療法)が最も有効で、副作用が少ないとされています。がん組織に作用する分子標的薬のアバスチンもあります。血管新生阻害剤で、化学療法の途中から併用します。3週間に1回点滴で、1年以上投与を続けます。最近のトピックスとしては、PARP阻害剤があります。当初は「白金系抗悪性腫瘍剤感受性」の再発の患者さんに使われていました。現在は、進行卵巣がんの患者さんに初回からの使用も出来るようになりました。
良性腫瘍
子宮筋腫
子宮筋腫は、子宮の筋層にできた良性の腫瘍です。小さなものも含めると、性成熟期の女性の約30%にみられます。子宮筋腫は、性成熟期には卵巣から分泌される女性ホルモンによって大きくなりますが、閉経すると女性ホルモンが減少するため小さくなります。複数個できることが多く、大きさやできる場所によって症状が異なります。
主な症状は、過多月経(月経量が多くなること)、それに伴い貧血になること、月経困難症です。その他に、月経時以外の出血、腹部膨満感、腰痛、頻尿、便秘などの症状があります。不妊、流産、分娩障害などの原因になることもあります。一方で、症状がない場合も多く、小さければ治療の必要はありません。症状がある場合には治療が必要となり、治療法には手術療法と薬物療法があります。
手術は、子宮全摘術(子宮をすべて摘出)と子宮筋腫核出術(筋腫だけを摘出し子宮を残す)があります。将来的に子どもが欲しい人や、子宮を残したいと強く希望する人には後者の手術を実施します。ただし、小さな筋腫は摘出が難しく、数年後に子宮筋腫が再発することがあります。
最近では、開腹手術よりも腹腔鏡手術(お腹の壁に小さな孔を4か所ほど開け、内視鏡と呼ばれるカメラをお腹の中に挿入し、内視鏡と接続されたモニターに映ったお腹の中の映像を見ながら行う)が一般的になってきましたが、大きさや個数によっては腹腔鏡手術が難しい場合もあります。
子宮筋腫を根本的に治す薬は今のところありませんが、薬で一時的に子宮筋腫を小さくしたり(半年の使用で体積が約45%減少)、症状を軽くすることは可能です。薬の治療では、偽閉経療法(月経を止める治療)が行われます。以前は、点鼻薬(鼻からのスプレー剤)と注射薬(皮下注射)の2種類でしたが、最近、内服薬が使えるようになりました。
この治療では、女性ホルモンの分泌が減少するため更年期の症状が出たり、骨量(骨内のカルシウムなど)が減少するため、使用期限が半年以内と決められています。治療を中止すると元の大きさに戻るため、手術前の一時的な使用や、閉経が近い年齢の方などの一時的な治療として行われています。
卵巣嚢腫
卵巣腫瘍(卵巣に腫れが生じた状態)は、良性、境界悪性、悪性(卵巣がん)の3つに大別され、良性のものの多くは卵巣にできた袋の内部に液体の貯留があり、これを卵巣嚢腫と呼びます。卵巣の片側に発生し(両側に発生することも)、女性の約5%程度に発生するといわれています。
卵巣は骨盤の奥深いところに位置するため、卵巣が多少腫れてきても症状はありませんが、腫大した卵巣嚢腫による重みで、隣接する卵管と一緒に子宮の根本でねじれてしまった場合には、急激な腹痛が生じ(茎捻転)、その場合には緊急手術が必要となります。
いろいろなタイプの卵巣嚢腫がある中で、最も多いタイプは成熟嚢胞性奇形腫と呼ばれています。袋の中には皮脂、髪の毛、歯・骨の成分などが入っており、これは卵子が単独で増殖することで発生します。他に、漿液性嚢腫(さらさらした液体が溜まる)や粘液性嚢腫(ねばねばした粘液が溜まる)などがあります。粘液性嚢腫は非常に大きくなることがあり、お腹が膨らんでくることもあります。
治療は手術療法となり、核出術(嚢腫だけを摘出)と卵巣を嚢腫ごと全摘する方法がありますが、多くの症例で腹腔鏡手術が可能です。
子宮内膜症・子宮腺筋症
子宮内膜症とは、子宮内膜(子宮の内面を覆う組織)に似た組織が、子宮の内面以外の場所(卵巣、骨盤腹膜など)にできて増える病気で、性成熟期女性の約10%に発生するといわれています。
子宮内膜症では、子宮内膜と同様に女性ホルモンにより周期的に増殖し、月経と同じように出血します。最もできやすい場所は卵巣で、卵巣の中に出血が起こり、徐々に腫れていきます。中身は古い血液で、チョコレートを溶かしたような液体が溜まるため卵巣チョコレート嚢胞と呼ばれています。また、子宮周囲の骨盤腹膜にも好発します。
代表的な症状は、月経困難症、慢性骨盤痛、性交痛、排便痛などです。また、不妊の原因になることも分かっているため、未婚の方に見つかった場合には、早い時期から適切な治療が必要となります。また、卵巣チョコレート嚢胞は卵巣がんのリスク因子になることも分かっています。
子宮腺筋症とは、子宮内膜に似た組織が子宮筋層内にできたものをいい、月経痛、過多月経、骨盤痛などが見られます。子宮内膜症や子宮腺筋症の治療には、薬物療法と手術療法があります。薬物療法としては鎮痛薬のほかにホルモン療法が行われ、手術療法としては妊娠を望む場合には病巣部のみ摘出する手術、望まない場合には根治手術(子宮全摘術 両側卵巣・卵管切除)を行います。
その他の婦人科疾患
骨盤臓器脱
加齢を背景として起こるものとして、骨盤臓器脱があります。骨盤臓器脱とは、子宮の下垂・脱出(子宮下垂・脱)とともに、膣の壁がゆるんで、その奥にある膀胱や直腸が下垂・脱出した状態をいいます(膀胱瘤、直腸瘤)。入浴中などに股の間にピンポン球のようなものが触れたり、歩行時に股の辺りに何かが下がっているような違和感があります。
朝は症状が少なく、夕方以降に症状が出やすいのが特徴で、進行すると排尿障害や排便障害が出ることがあります。加齢以外に、出産、肥満(腹圧がかかる)、便秘、重いものを持つなどが原因といわれており、長期的に見れば、ほとんどの場合でゆっくり進行していきます。リング状のペッサリーを膣内に挿入して子宮を正常の位置に押し上げる方法や、手術療法が行われます。
異所性妊娠(子宮外妊娠)
子宮の中以外に妊娠した場合を異所性妊娠(子宮外妊娠)といいます。当院ではお腹の中に出血している状態でも、ほとんどの症例で腹腔鏡を使って手術を行っています。
救急科、手術室、麻酔科との連携が良く、緊急時対応もスムーズに行えます。
その他
子宮奇形や外陰部の病気など珍しい症例も多くあり、患者さんと相談をしながらQOLを重視した治療を行っております。
低侵襲手術(腹腔鏡手術)
当院は広島県で先駆けて腹腔鏡手術を開始して以来、積極的に体の負担が少ない低侵襲手術(内視鏡手術)に取り組んでいます。現在産婦人科全体で年間約1500件の手術を行っていますが、このうち約500例は腹腔鏡を使用して手術を行っております。現在、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)が4名所属しています。
腹腔鏡手術とは
腹腔鏡という内視鏡(カメラ)を用いた手術法で、お腹に5㎜~12㎜の穴を数箇所あけて、炭酸ガスでお腹を膨らませて手術を行います。開腹手術に比べ痛みが少なく社会復帰が早いという利点に加えて、女性では傷が目立ちにくいのも利点の一つです。また、腹腔鏡手術は細い鉗子を使った繊細な操作が特徴であり、出血量が少なく術後の癒着も少ないと言われています。
良性疾患に対する腹腔鏡手術
良性婦人科疾患に対しては、基本的に低侵襲手術を行っています。主な適応は子宮筋腫、卵巣嚢腫などで、子宮全摘、子宮筋腫核出、卵巣嚢腫摘出などを中心に行っています。以前は難しかった大きな子宮筋腫や癒着症例についても適応を拡げています。また、24時間緊急腹腔鏡手術が可能な体制をとっており、異所性妊娠や卵巣捻転などの救急疾患に対応しています。
悪性疾患に対する腹腔鏡手術
悪性腫瘍手術に対しても低侵襲手術を導入しています。2014年4月より初期子宮体癌に対する腹腔鏡下手術が保険適応となり、適応可能な症例であればこの手術を選択して頂くことができます。平成31年4月より子宮体癌を対象にロボット支援下手術(da Vinci Xi)も行っています。また、初期子宮頸癌に対しても腹腔鏡下広汎子宮全摘術を行っています。詳しくは外来で医師にお尋ねください。
産科疾患
プレコンセプションケア外来
当科では、2023年よりプレコンセプションケア外来(妊娠前相談外来)を開始しました。プレコンセプションケアとは,妊娠前の適切な時期に適切な知識・情報を女性やカップルを対象に提供し,将来の妊娠のためのヘルスケアを行うことです.妊娠・出産の問題(早産,低出生体重など)は赤ちゃんのその後の健康状態に影響し,妊娠前からもっている母体のリスク因子(肥満・やせ,持病,薬剤,葉酸不足など)は,妊娠・出産・母体・赤ちゃんの健康に影響します.当院ではとくに、現在ご病気をお持ちの方(糖尿病・高血圧・甲状腺疾患・膠原病・精神疾患など)を中心に,妊娠に向けて知っておいていただきたい情報を提供していきたいと思います.妊娠前相談をご希望の方は,かかりつけ医より地域連携室を通してご予約ください.
無痛分娩
無痛分娩とは薬剤を用いて陣痛の痛みを軽くする分娩方法です。当院では、麻酔科と共同管理で硬膜外麻酔による計画分娩で行っています。現在のところ、経産婦さんを対象としており、合併症やリスクのある方は対象としておりません。無痛分娩費用は、通常の分娩費用に加えて(下記)、約16万円となります。
無痛分娩をご希望の方は、その旨を産婦人科担当医または助産師、看護師にお伝えください。他院で妊婦健診をされている方は、かかりつけの産婦人科の先生から、医療連携室を通して当科へご紹介いただくようお願いします。一度受診いただいて、当院の基準に該当するか判断させていただきます。
無痛分娩施設情報
出生前遺伝学的検査
当院は日本医学会の出生前検査認証制度によるNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)の実施施設です。2024年4月より開始予定です。
検査を希望される方は妊婦健診とは別にご夫婦もしくはご本人・パートナーとで遺伝カウンセリングを受けていただくことが必要です。予約については外来スタッフにお尋ねください。特別な事情がありご本人のみで遺伝カウンセリングをご希望の場合はお申し出ください。
以下PDF、下記の出生前認証制度等運営委員会のウェブサイトをご参照ください。
出生前認証制度等運営委員会のウェブサイト:https://jams-prenatal.jp/
胎児出生前診断
当科では初期より詳細な超音波検査のほか、コンバインド検査、羊水染色体検査などの出生前検査を行っております。出生前遺伝学的検査のご希望がある方は、事前のカウンセリングを行いますのでお伝えください。また当院で分娩予定の方は妊娠19週〜20週頃に胎児超音波スクリーニング検査を行っております。広島県内で総合母子周産期センターかつ小児外科疾患、先天性心疾患を取扱う施設は当院のみとなっています。出生後に治療を担当される新生児科、小児外科、循環器小児科、脳神経外科などと連携して妊娠中から十分にお話させていただき、スムーズに治療が開始できる様に心がけております。また出生前に診断される疾患の中には胎児期に治療できるもの(胎児胸水、双胎間輸血症候群、重症横隔膜ヘルニアなど)があり、全国の専門施設と連携してご紹介、あるいは管理を行っております。赤ちゃんのことで気になることお聞きになりたいことがありましたら、担当医にご相談ください。できるだけ丁寧にわかりやすく説明させていただいております。
双胎妊娠
双胎妊娠では、子宮の中に二人の児がいるため早産となるリスクがかなり高くなり、双胎妊娠の約半分が早産になるといわれています。当科では切迫早産となった方の入院管理を行うことが多くあります。
一般的には双胎は1卵性と2卵性に分けられていますが、医学的に重要となるのは膜性による分類で大きく分けて3種類あります。胎盤を共有せず2重の膜で隔てられている二絨毛二羊膜双胎(70%)と、胎盤を共有し1枚の膜で隔てられている一絨網膜二羊膜双胎(30%)、膜で隔たれていない、一絨毛膜一羊膜双胎(非常にまれ)があります。妊娠初期に超音波検査で卵膜の状態を調べておくことが必要であり、膜性診断といいます。一絨毛膜二羊膜双胎または、一絨毛膜一羊膜双胎は胎盤を共有するため、一児がほかの児に影響を及ぼすことがあります。一絨毛膜二羊膜双胎の場合、80%以上はほぼ順調な妊娠経過をたどりますが、残りの10~15%は双胎間輸血症候群という合併症をきたすといわれています。双胎間輸血症候群では、一方の胎児の血液がもう一方の胎児へ供血し、一方の児が心不全に、もう一方の児が虚血になるという疾患であり、高度の場合は、胎児が亡くなることがあり、また生存した児も神経学的後遺症が残る可能性があります。現在は、胎児鏡下胎盤吻合血管凝固術(FLP)という胎児治療が行われるようになり、妊娠中期に吻合血管を内視鏡下に焼灼することでよい成績につなっています。一絨毛膜二羊膜双胎では1~2週間毎に健診を行い、赤ちゃんの大きさ、膀胱の大きさ、羊水の量、心機能(胎児血液など)を評価し、その適応を見極め、国内の専門施設を紹介させて頂いております。また妊娠26週以降では慎重に分娩時期の決定を行っております。
当科では双胎妊娠は帝王切開での分娩を行っています。
品胎妊娠
品胎妊娠は子宮内に三人の児がいる場合で、双胎妊娠よりさらに早産のリスクが高くなります。また、3卵性でない場合は双胎間輸血症候群と同様な状態になる場合があります。
当院では児の予後がよくなる妊娠34週以降の分娩を目標とし、妊娠12週頃に子宮頸管縫縮術を行い、妊娠24週頃からは入院管理を行っています。
切迫早産
妊娠22~36週で分娩することを早産といい、その時期に子宮頸管長短縮を行う子宮収縮や性器出血などの症状がある場合を切迫早産といいます。早産で出生した児は未熟で、予後が悪い場合もあるため、切迫早産の早期診断と治療が重要となります。特に安定期と言われている妊娠22~26週の早産児で予後が悪くなりますので注意が必要です。
早産は双胎妊娠、品胎妊娠、細菌性膣症合併妊娠、円錐切除後や早産の既往がある場合にリスクが高くなります。切迫早産の早期診断のため、妊婦健診時必要に応じて超音波検査で子宮頚管長の測定を行います。また下腹部痛や腹部緊満など子宮収縮の症状や性器出血を認めた場合は、早めに受診することも重要です。切迫早産の治療は主に安静と子宮収縮抑制剤投与になります。
頸管無力症
主に妊娠中期に、子宮収縮の自覚なく子宮頸部が緩む場合を頸管無力症といいます。実際には、子宮収縮や感染と同時に起こっていることが多く、その診断は困難です。当院では、22週未満で、感染を伴っておらず、適応があると判断された場合、緊急子宮頚管縫縮術を行っています。子宮頚管縫縮術はシロッカー手術とマクドナルド手術とありますが、当院ではより頸部を強く絞めることのできる可能性の高いシロッカー手術を行うことを基本としております。これにより、妊娠継続期間の延長をはかることが期待されます。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊婦さん約20人に1人の割合で起こります。程度はさまざまですが早い週数で発症した場合や、尿蛋白を伴っている場合、全身浮腫や急な体重増加を伴っている場合は、重症化しやすく注意が必要です。重症になるとけいれん発作(子癪)、脳出血、HELLP症候群、胎児発育不全、常位胎盤早期剥離、胎児機能不全、胎児死亡などお母さんと赤ちゃんともに大変危険な状態となることがあります。
妊娠する前から糖尿病、高血圧、腎疾患などをもっていた方や肥満、高齢妊娠、多胎妊娠、初産婦、以前妊娠高血圧症候群になったことがある方は、妊娠高血圧症候群になりやすいため注意が必要です。
原因はまだはっきりしていませんが、胎盤の形成がうまくいかないことが関係していると近年考えられています。当院では、上記の項目に加えて、初期~中期に胎盤の状態や子宮動脈血流などを超音波検査で評価することで、妊娠高血圧症候群になりやすい背景があるかどうか判断し、その後管理方針を決定、早期発見、早期対応に努めています。
胎児発育不全
胎盤・臍帯因子、母体因子、胎児因子などさまざまな原因で起こります。原因を精査し慎重に管理させていただいています。週数の割に小さな胎児は予備能力も小さく通常の分娩に耐えられないことがあり、帝王切開が必要となる場合も多くみられます。また、長期間発育が停止している場合は早期に体外に出してあげた方がよいことがあり、早期分娩となる場合もあります。超音波カラードプラによる臍帯血流や胎児の脳血流を測定することによりある程度の予後が推察されます。分娩監視装置と併用することにより、分娩の時期を決定し良い結果をもたらしております。また胎児発育不全の胎児は、妊娠高血圧症候群や常位胎盤早期剥離などが一般より起こりやすいため、妊娠中は厳重な管理をさせていただいております。
前置胎盤・前置癒着胎盤
前置胎盤とは子宮下部(子宮口にかかる位置)に胎盤が付着している場合で、妊娠中や分娩(帝王切開が選択されます)中の出血が大量になるリスクがあります。診断がついた時点でリスクに対応できる病院に紹介される場合が多く、当院で分娩される方も少なくありません。出血量が多くなるため、可能であれば自己血を貯血し分娩に備えるようにしています。
前置胎盤の5~10%には胎盤が子宮に癒着している場合(癒着胎盤)があり、出血量がさらに多くなるほか、胎盤が剥離した部位からの出血が子宮を摘出しなければ止血できないこともあります。必要に応じて帝王切開前にMRI検査を行い、超音波検査の所見と併せて癒着胎盤の可能性について総合的に評価します。癒着胎盤が疑われる場合は、麻酔科、手術室、放射線科、泌尿器科、新生児科と連携のうえ、危機的出血に備えれる体制を入念に計画して帝王切開を行っています。
合併症妊娠
心疾患、糖尿病、甲状腺疾患、腎疾患、高度肥満、やせなど妊娠の際に母体のみならず赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性のある疾患をお持ちの方がいらっしいます。当院では産科以外にも他の専門科と連携して母体やお子さんの管理に努めいさせていただいております。また、持病をお持ちの方で、これから妊娠を考えておられる方の妊娠前相談(プレコンセプション相談)も行っておりますので、ご希望の方はお問い合わせください。
また子宮筋腫や卵巣腫瘍など妊娠中に初めて見つかった婦人科疾患に対しても対応しております。疾患の種類や大きさ、位置などにより治療の必要性や分娩方法を検討します。
常位胎盤早期剥離
常位胎盤早期剥離とは、まれに赤ちゃんがお腹の中にいる間に、胎盤が子宮から剥がれることをいいます。赤ちゃんは胎盤を介してお母さんから酸素や栄養を受けているため、胎盤が先に剥がれると酸素が不足し、脳性麻痺などの障害が残ることや死亡することがあります。またお母さんが重篤な状態になることもあります。このため大至急の対応が必要になります。
妊娠高血圧症候群、高血圧合併妊娠、常位胎盤早期剥離の既往、胎児発育不全、胎盤機能不全、切迫早産、腹部外傷、喫煙される方などでリスクが高くなります。腹痛や性器出血など切迫早産の症状や分娩の徴候と判別が難しいこともありますが、急な腹痛、持続的な痛み、多めの出血、少量出血が続く場合、胎動の減少は常位胎盤早期剥離の可能性もありますので、判断に困る場合は早めの相談や受診が必要です。
診断がつき次第、緊急帝王切開が必要となりますが、当院では帝王切開の決定から10~30分以内に児を娩出できるように努めています。
瘢痕部妊娠
以前の帝王切開の際に子宮を切開した創部(瘢痕部)に受精卵が着床した場合を瘢痕部妊娠といいます。瘢痕部妊娠は,帝王切開の頻度上昇に伴い増加していますが、帝王切開2000件に1件と稀な疾患です。癒着胎盤や子宮破裂などにより大量出血を来たしやすく、早期に適切な診断,治療が必要です。特に妊娠継続を希望される場合は、慎重な判断と管理が必要となります。当科ではUAE(子宮動脈塞栓)を併用した手術、腹腔鏡手術、妊娠継続例では、妊娠中期から管理入院のうえ、麻酔科、手術室、放射線科、泌尿器科、新生児科と連携のうえ、危機的出血に備えれる体制を入念に計画して帝王切開を行っています。
高齢妊娠・生殖補助医療妊娠
近年、高齢妊娠や生殖補助医療による妊娠の方が増加しています。高齢妊娠では、高血圧、糖尿病などの持病を合併する率が高くなり、また妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、前置胎盤、分娩時多量出血、癒着胎盤などを発症しやすく、帝王切開が必要となる率も高くなります。生殖補助医療による妊娠でも、前置胎盤、分娩時多量出血、癒着胎盤などを発症しやすいといわれています。これらのリスクをふまえて、妊娠期から産後まで慎重に管理しています。
分娩料金、入院日数について
平均的な費用、日数は下記の通りです。時間帯や経過によって前後します。
経腟分娩 費用:46-52万円 入院日数:分娩後4-5日
帝王切開 費用:43-52万円 入院日数:術後5-6日
ロボット支援下手術(ダビンチ手術)
当科では2013年より、ロボット支援下手術(ダビンチ手術)を開始致しました。2019年12月よりは初期子宮体がんの方を対象に、保険適用で同手術を行っています。
メリット
ダビンチ手術では、画面が拡大できること、3Dで見えることなどにより、より細かい手術が可能となり、細い血管も見逃さず、止血することが可能になります。出血量は減少します。アームの操作は機械を介して行いますから、手の震えも伝わることなく、操作が可能です。アームの動きも、手首の関節よりもっと可動域がひろく、自由に動けるので、狭いところでの操作も得意です。アームの動きが機械で操作されるので、創部に無理な力が掛からず、術後の痛みも従来の腹腔鏡より少ないです。
デメリット
機械のセッティングおよび緻密な操作を行うためやや手術時間が長くなります。
当科での適応
現在は初期子宮体がんの方を対象に保険適用で、子宮筋腫などの良性子宮疾患に対して公費負担で行っています。
da Vinci Xi
現在までの症例
現在までに、約30例に対してロボット支援下手術(ダビンチ手術)を行いました。術後経過も良好であり、出血も少なく、問題となる手術合併症も認めていません。