脳神経疾患が疑われる急患の紹介(医療関係者の皆さまへ)
脳神経疾患が疑われ,緊急に対処が必要な(あるいはその判断に迷う)場合は,当院の電話交換で「今日の責任者(マネージャー)」を呼び出していただければ,できるだけ迅速に対応いたします.
脳神経内科での後期研修について
脳神経内科では,広島県だけでなく他都道府県からの当院の内科研修プログラムへの応募も歓迎しております.所属医局,入局の有無は問いません.当院2年+院外1年ですが,院外研修は豊富な連携施設から選ぶことができます.興味のある先生は是非お問い合わせ下さい.下記の紹介動画もぜひ一度ご覧下さい。
脳神経内科とは
脳神経内科は、一言で言えば「脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気を診る内科」です。以前は神経内科と呼ばれていましたが、神経科・心療内科などとの違いが分かりにくいということで、2018年以降に全国で名前の変更が行われています。ではどのような症状のある方が脳神経内科を受診すれば良いのでしょうか?脳神経内科で扱う症状は実に多彩です。
代表的な症状としては、「頭痛」、「めまい」、「しびれ」、「ふるえ」、「物忘れ」、「けいれん」、「うまく力が入らない」、「身体の脱力」、「ろれつが回らない」、「見にくい」、「筋肉のやせ」、「筋肉の痛み」、「意識障害」などがあります。このような症状でお困りの場合は、脳神経内科への受診をお勧めいたします。もちろん、これらの症状が全て脳神経内科の病気というわけではなく、他の診療科が扱う病気の場合もあります。その可能性が高いと判断した場合は、適切な診療科に紹介させて頂きます。
では、このような症状を起こす脳神経内科の病気にはどのようなものがあるでしょうか?扱う症状も多いので、病気も一般的なものから稀なものまで多岐にわたります。
主な病名としては、「脳卒中」、「頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)」、「てんかん」、「アルツハイマー病」、「レビー小体病」、「血管性認知症」、「パーキンソン病」、「パーキンソン症候群」、「運動失調症」、「髄膜炎、脳炎」、「重症筋無力症」、「免疫性ニューロパチー」、「代謝性・遺伝性ニューロパチー」、「ミオパチー」、「筋ジストロフィー」、「急性脳症」、「筋萎縮性側索硬化症」、「球脊髄性筋萎縮症」などを診療の対象としております。
脳神経内科は、「脳卒中」、「てんかん発作」、「髄膜炎、脳炎」など救急医療を必要とすることの多い病気から、じっくりと診察をする必要がある「神経難病」までさまざまな病気を扱います。救急疾患については、救急科・脳神経外科などと協力し、迅速に対応させて頂きます。一方、救急以外の「神経難病」などが疑われる場合は、基本的には予約での外来診療を行っておりますので、まずはお近くの「かかりつけ」の先生を受診し、ご相談頂ければと思います。
脳神経内科の医師は、一般的な内科の経験を積んだ後、脳神経内科全般の専門的知識と技術を習得します(脳神経内科の専門医)。さらにその専門性にあわせて、脳卒中、脳神経血管内治療、頭痛、認知症、臨床生理、てんかんなどのさらに細分化された知識と技術を習得します。(各種学会の専門医) 当科の医師のプロフィールは、「医師紹介」の項をご参照ください。
当科では、入院された方につきましては、その病気にあわせた複数医師のチームで担当させて頂いております。したがって、外来担当医とはまた違う医師が担当になることもあります。また、限られた医療資源を最大限有効にするため、病院同士の連携、病院とクリニックの連携を重視しております。当院での治療が終了した場合には、他の病院への転院やクリニックへ紹介させて頂いております。ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。
当科で実施しあるいは協力した最近の主な臨床研究および症例報告の論文
1. Initial deterioration and intravenous methylprednisolone therapy in patients
with myasthenia gravis
(重症筋無力症の患者における初期増悪と静注のメチルプレドニゾロン療法)
Journal of the Neurological Sciences 2020;412:116740
杉本太路,越智一秀,石川若芸,田妻 卓,林 正裕,峰 奈保子,内藤裕之,野村栄一,郡山達男,山脇健盛
重症筋無力症に対するステロイド治療において,症状の初期増悪は注意が必要である.今回我々は,重症筋無力症の患者において初回の静注のメチルプレドニゾロン療法(パルス療法)と初期増悪の関係について検討した.51人の重症筋無力症の患者において,定量的評価法では21人(41%)に初期増悪がみられた.初期増悪が起こった症例では,治療開始から4日目(中央値)に初期増悪が生じ,3日間(中央値)持続した.多変量解析では,初期増悪が生じることは,重症筋無力症が重症であることおよび胸腺摘出術を行っていることと有意に関係した.
2. Clinical comorbidities correlated with a response to the cerebrospinal fluid tap test in idiopathic normal-pressure hydrocephalus
(特発性正常圧水頭症において髄液タップテストへの反応性に関係する臨床的合併症)
J Neurol Sci. 2021 Nov 15;430:120024. doi: 10.1016/j.jns.2021.120024.
内藤裕之,杉本太路,木本和希,阿部貴文,河野智仁,松岡千加,大野成美,儀賀麻由実,河野智之,上野弘貴,野村栄一
2010年から2021年までに当科に特発性正常圧水頭症の髄液タップテスト目的で入院した75人を,タップテストで改善した38人と改善しなかった37人の2群に分けて比較を行った.多変量解析では,症状が改善しないことは,高度な大脳の白質病変および変形性腰椎症と有意に関係していた.75人中22人で,脳神経外科で髄液のシャント術が行われ,髄液タップテストで改善が得られた19例のうち16例(84.2%)で手術により症状が改善したが,改善しなかった3例は全例,手術で症状は改善しなかった.
3. 腎細胞癌に対するイピリムマブとニボルマブ併用療法後に髄膜脳炎と多発神経根炎を発症した76 歳男性例
臨床神経 2021;61:658-662
大野成美、杉本太路、儀賀麻由実、内藤裕之、河野智之、野村栄一
要旨:2020 年6 月中旬から右腎細胞癌に対しイピリムマブとニボルマブの併用療法を2 コース施行された.7月中旬頃から易怒性,倦怠感を認め,体温39°C,the Japan coma scale(JCS)III-300 と状態が悪化した.頭部MRI 造影FLAIR 像で髄膜造影効果を呈し,髄液蛋白・細胞数の上昇を認めた.メチルプレドニゾロン大量療法4クールでJCS I-2 に改善し髄膜造影効果は消失し,髄液adenosine deaminase 高値も改善した.また末梢神経障害を認め,免疫関連副作用としての髄膜脳炎と多発神経根炎を合併したまれな症例と考えられた.
4. Characteristics of cause of death and triggers for crisis in patients with myasthenia gravis
(重症筋無力症患者における死亡原因とクリーゼの誘因の特徴)
Neurol Clin Neurosci. 2022;10:147–154.
杉本太路,越智一秀,山脇健盛,内藤裕之,大野成美,野村栄一,郡山達男,丸山博文
重症筋無力症患者の死亡原因とクリーゼの誘因についての知見を高めることは患者を日常生活でより注意深く行動させるかもしれない.我々は,233名の重症筋無力症の患者を対象に研究を行った.観察期間中に8名が亡くなり,その原因は4名が癌,2名が突然死,あとは胸腺腫と椎骨動脈解離が1名ずつであった.14名がクリーゼを生じ,最も一般的な誘因は呼吸器感染でコリン作動性クリーゼやメチルプレドニゾロン治療によるものが続いた.重症筋無力症患者においては呼吸器感染や癌に特に留意し診療にあたる必要がある.重症筋無力症の突然死についてはさらなる研究を行うべきである.
5. Prognosis Prediction Using Magnetic Resonance Spectroscopy and Oligoclonal Bands in Central Nervous System Methotrexate-associated Lymphoproliferative Disorder(中枢神経原発メソトレキサート関連リンパ増殖性疾患のMRSとオリゴクローナルバンドを用いた予後予測)
Intern Med 2022;61:3733-3738
上野弘貴,大野成美,阿部貴文,木本和希,松岡千加,儀賀麻由実,内藤裕之,河野智之,高須深雪,木谷尚哉,山崎理恵,市村浩一,野村栄一
中枢神経原発メソトレキサート関連リンパ増殖性疾患(CNS-MTX-LPD)は稀だが,投薬中止により自然に寛解が得られる症例も見られる.我々は,関節リウマチに対して経口メソトレキサートを投与中にCNS-MTX-LPDを発症した3症例を報告する.いずれもEBウイルスとオリゴクローナルバンドが陽性で,1 H-MRSでlipidが上昇している一方でcholine/N-acetylaspartate比の上昇は軽度に止まっていた.メソトレキサートの中止後に3症例とも病巣は縮小した.今回のような1 H-MRSの所見やオリゴクローナルバンドが陽性であることは,CNS-MTX-LPDの良性タイプ(非モノクローナルなリンパ増殖)であることを反映しているのかもしれない.
6. 発症5 年以上の全身型重症筋無力症患者の重症筋無力症-日常生活動作スコアに関連する因子の検討:難治性の診断のために
臨床神経 2022;62:915-921
杉本太路、山脇健盛、内藤裕之、大野成美、儀賀麻由実、河野智之、越智一秀、郡山達男、野村栄一、丸山博文
当科で診療した発症から5 年以上の全身型重症筋無力症患者55 例を解析対象とし,最終観察時重症筋無力症-日常生活動作(the Myasthenia Gravis Activities of Daily Living,以下MG-ADL と略記)スコアが高い群の特徴を解析した.最終観察時MG-ADL スコアの関連因子は総速効性治療回数とMyasthenia Gravis Foundationof America(MGFA)分類であった.MG-ADL スコア5 以上の患者では1)発症時年齢が若年で,2)罹病期間が長く,3)MGFA V 症例が多く,4)総FT 回数が多く,5)最終観察時PSL 量が多かった.MGFA V 症例,E-L-T分類によらず発症年齢が若年である症例,PSL 量の減量が困難な症例はより早期に新規治療の対象になる可能性があり,前向き研究での検証が期待される.
7. Changes in the amplitude decremental response to repetitive nerve stimulation following fast-acting treatment in patients with myasthenia gravis during hospitalization(入院中の重症筋無力症患者における即効性の治療後の反復神経刺激に対する振幅減衰反応の変化)
Clin Exp Neuroimmunol. 2022;13:272–279.
内藤裕之、杉本太路,、黒川勝己、木本和希、阿部貴文、松岡千加、大野成美,儀賀麻由実、河野智之、上野弘貴、野村栄一
目的:本研究は、重症筋無力症(MG)の患者において、血漿交換、高用量の経静脈的メチルプレドニゾロンそして経静脈的免疫グロブリン投与といった即効性治療後における反復神経刺激試験(RNS)の振幅の変化について見極めることを目的とした。
方法:我々は、即効性の治療後にRNSを行った41名のMGを後ろ向きに登録した。正中、尺骨、顔面、腋窩神経を検査した。QMG3点以上あるいはMG-ADLスケールの2点以上の改善を治療後の臨床的改善と適宜して使用した。10%以上の減衰を異常と定義した。
結果:登録した41人(眼筋型13人、全身型28人)のうち、22人(53.7%)が治療後に臨床的な改善を示した。全身型MG患者のうち、前頭筋、僧帽筋、三角筋を含む近位筋における異常なRNS減衰の改善の割合は、臨床的な改善を伴わないグループより、臨床的な改善を伴うグループで有意であった(46.7% vs 0%, P=0.005)。ロジスティック回帰分析は、入院時の定量的なMGスコアと異常な振幅減衰の改善は、即効性の治療に対する反応と関係していることを示した(順にP=0.015とP=0.045)。
結論:RNSで検出される振幅減衰の変化は、全身型MGの患者で即効性の治療の治療効果を反映した。近位筋におけるRNSの反応は、入院中のMG患者における積極的な免疫療法後の改善の客観的測定手段として役に立つ可能性を秘めているかもしれない。
8. A case of retinal vasculopathy with cerebral leukoencephalopathy and systemic manifestations: Long-term treatment with repeated courses of immunotherapy.
Neurol Clin Neurosci. 2022;10:321–324.
Kazuki Muguruma, Takamichi Sugimoto, Yoshiko Terada, Junhui Yuan, Eiichi Nomura, Hiroshi Takashima, Takemori Yamawaki, Tatsuo Kohriyama, Hirofumi Maruyama.
この論文では、48歳の男性の症例を報告しています。彼は最初に網膜症を発症し、8年後に運動障害と失語症が現れました。脳MRIで腫瘍様病変が確認され、TREX1遺伝子の異常が特定されたため、網膜血管障害を伴う脳白質脳症および全身症状(RVCL-S)と診断されました。メチルプレドニゾロンのパルス療法と免疫グロブリン療法を行った結果、脳脊髄液の検査結果と臨床症状は改善しましたが、3年後に新たな病変が現れ、免疫療法は効果を失いました。治療後の検査結果と脳MRIを6年間評価したところ、凝固検査の結果が高いままであったため、免疫療法の効果は限定的であると考えられました。
9. Double trouble: A case of spinal muscular atrophy type III found to be complicated by myasthenia gravis due to subacute dysphagia.
Clin Exp Neuroimmunol. 2022;13:290-294.
Ruoyi Ishikawa, Takamichi Sugimoto, Takafumi Abe, Narumi Ohno, Mayumi Giga, Hiroyuki Naito, Tomoyuki Kono, Eiichi Nomura, Takemori Yamawaki.
背景: 脊髄性筋萎縮症(SMA)は、下位運動ニューロンの進行性の喪失によって引き起こされる遺伝性疾患です。重症筋無力症(MG)は、獲得性の自己免疫性神経筋接合部疾患です。我々は、SMAとMGが共存する稀な症例に遭遇しました。症例報告: 20代でSMAタイプIIIと診断された男性が、71歳で肘を曲げるのが困難になり、数ヶ月以内に嚥下障害が現れました。食事が困難になり、胃瘻造設のために当院に紹介されました。嚥下障害を引き起こす可能性のある他の疾患を調査した結果、アセチルコリン受容体抗体とエドロホニウム試験が陽性を示し、MGと診断されました。遺伝子検査によりSMAが再確認されました。メチルプレドニゾロン、ピリドスチグミン、タクロリムスの投与を行った結果、嚥下障害が徐々に改善し、完全な食事が可能になりました。患者は胃瘻造設を受けることなく退院しました。結論: SMAタイプIIIは、筋力の徐々の進行性低下を特徴とする疾患です。筋力低下が進行し、嚥下障害が急性に現れる場合、MGのような他の疾患の合併を考慮する必要があります。
10. A 36-year-old Man with Repeated Short-term Transient Hyperammonemia and Impaired Consciousness with a Confirmed Carbamoyl Phosphate Synthase 1 Gene Monoallelic Mutation.
Intern Med. 61:1387-1392, 2022.
Ishikawa R, Sugimoto T, Abe T, Ohno N, Tazuma T, Giga M, Naito H, Kono T, Nomura E, Hara K, Yorifuji T, Yamawaki T.
36歳の男性が飲酒後に2回、重度の意識障害と高アンモニア血症を経験しました。アンモニア値以外の血液検査では異常は見られませんでしたが、MRIでは脳実質の萎縮が認められました。2回目の発作時には、患者は重度の意識障害を呈し、痙攣と舌根沈下のため人工呼吸器管理が開始されました。尿素サイクル異常症(UCDs)の関与が疑われました。遺伝子検査により、カルバミルリン酸合成酵素1(CPS1)遺伝子の単一アレル変異が確認されました。成人で原因不明の一過性高アンモニア血症が繰り返される場合、UCDsの積極的な検査を行うべきです。
11. Effect of region-wide use of prehospital stroke triage scale on management of patients with acute stroke.
J Neurointerv Surg. 2022;14.677-682.
Hayato Araki, Kazutaka Uchida , Shinichi Yoshimura, Kaoru Kurisu, Nobuaki Shime, Shigeyuki Sakamoto, Shiro Aoki, Nobuhiko Ichinose, Yosuke Kajihara, Atsushi Tominaga, Hiromitsu Naka, Tatsuya Mizoue, Masayuki Sumida, Nobuyuki Hirotsune , Eiichi Nomura, Toshinori Matsushige, Junichi Kanazawa, Yukio Kato, Yukihiko Kawamoto , Kazuhiko Kuroki , Takehi Morimoto.
この研究は、日本の広島市で実施された脳卒中トリアージスケール(JUST score)の地域全体での導入効果を評価したものです。主な結果は以下の通りです:
1. JUST scoreの導入後、救急隊の最初の病院搬送要請の成功率が76.3%から79.7%に向上しました。
2. 大血管閉塞(LVO)患者に対する血栓回収療法において、病院到着から穿刺までの時間(D2P)が84分から73分に短縮しました。
3. しかし、90日後の機能予後(mRSスコア)には有意な改善は見られませんでした。
4. JUST scoreを使用してトリアージされた患者は、されなかった患者と比べて、より適切な病院に搬送される傾向がありました。
5. 全体として、JUST scoreの導入は救急搬送システムと病院の準備時間を改善しましたが、患者の長期的な転帰改善には至りませんでした。
研究者らは、脳卒中の疑いのある患者に対してJUST scoreをより広く使用することの重要性を強調しています。また、さらなる時間短縮と院内緊急ケアの改善が必要だと結論付けています。
当院では脳神経外科と当科で研究に参加しております。
12. 発症5 年以上の全身型重症筋無力症患者の重症筋無力症-日常生活動作 スコアに関連する因子の検討:難治性の診断のために.
杉本太路、山脇健盛、内藤裕之、大野成美、儀賀麻由実、河野智之、越智一秀、郡山達男、野村栄、丸山博文.
臨床神経 2022;62:915-921.
当科で診療した発症から5 年以上の全身型重症筋無力症患者55 例を解析対象とし,最終観察時重症筋無力症-日常生活動作(the Myasthenia Gravis Activities of Daily Living,以下MG-ADL と略記)スコアが高い群の特徴を解析した.最終観察時MG-ADL スコアの関連因子は総速効性治療回数とMyasthenia Gravis Foundation of America(MGFA)分類であった.MG-ADL スコア5 以上の患者では1)発症時年齢が若年で,2)罹病期間が長く,3)MGFA V 症例が多く,4)総FT 回数が多く,5)最終観察時PSL 量が多かった.MGFA V 症例,E-L-T分類によらず発症年齢が若年である症例,PSL 量の減量が困難な症例はより早期に新規治療の対象になる可能性があり,前向き研究での検証が期待される.
13. 広島市における急性期脳梗塞症例の多施設前向き登録研究(HARP study).
広島医学2022;75:383-388.
青木志郎,祢津智久,今村栄次,溝上達也,山下拓史,原 直之,松重俊憲,野村栄一,河野智之,廣常信之,越智一秀,仲 博満,木下直人,富永 篤,岐浦禎展,坂本繁幸,丸山博文.
2020 年7 月から2021 年6 月までに広島市内の5 つの脳卒中急性期病院(広島大学病院,翠清会梶川病院,安佐市民病院,広島市民病院,県立広島病院)に入院した急性期脳梗塞患者1,495 例の患者背景や急性期の治療内容について検討を行った。平均年齢は75.4±12.5 歳,女性の割合が42.9%で,併存疾患の有病率や入院時の重症度は日本全国のデータとほぼ同様であった。超急性期治療である再開通療法(rt-PA 静注療法,血栓回収療法)の施行率は,それぞれ登録症例全体の9.8%,7.8%であり全国の脳卒中急性期病院での施行率と比較してやや低い傾向であった。本研究は,広島市で初めての急性期脳卒中症例における多施設共同前向き登録観察研究であり,今後さらに登録症例数を蓄積し詳細なデータを解析することにより,広島市全体の脳卒中診療の質の向上に寄与したい。
当院では脳神経外科と当科で研究に参加しております。
14. Features of repetitive nerve stimulation and nerve conduction studies in patients with amyotrophic lateral sclerosis.
Neurol Clin Neurosci. 2023;00:1–6.
Takamichi Sugimoto, Katsumi Kurokawa, Hiroyuki Naito, Tomoyuki Kono, Eiichi Nomura, Hirofumi Maruyama.
本研究は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断における反復神経刺激(RNS)と神経伝導検査(NCS)の有用性を評価しました。2016年から2020年にかけてALSと診断された患者54名のうち47名を対象に、RNSとNCSの異常所見の頻度を調査しました。RNSでは母指外転筋(APB)や僧帽筋など5つの筋肉で10%以上の減少を異常とし、NCSではAPB/小指外転筋(ADM)の振幅比が0.6未満を異常と定義しました。
結果として、上肢症状がある患者ではRNS異常率が70%、NCS異常率が49%、両方で異常が見られる割合が78%でした。一方、上肢症状がない患者ではそれぞれ30%、20%、40%に留まりました。特にRNSの異常は上肢症状のある患者で有意に多く、上肢症状がRNS異常率に影響を与える可能性が示唆されました。また、疾患進行期間が長いほどRNS異常率が高い傾向も確認されました。
本研究は単施設で行われたため、今後は多施設での大規模な研究が必要とされています。また、下肢症状や球麻痺型症状を主とする患者への新たな診断手法の開発も求められています。
15. A case of ischemic stroke associated with protein-losing gastroenteropathy and protein S deficiency.
J Stroke Cerebrovasc Dis. 2023 Jul;32(7):107151. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2023.107151.
Kimoto K, Nezu T, Nomura E, Aoki S, Kawano T, Katsumata R, Nonaka M, Yoshida Y, Yuge R, Maruyama H.
この論文は、タンパク漏出性胃腸症と遺伝性プロテインS欠乏症を併発した24歳女性の虚血性脳卒中症例を報告しています。患者は出産4ヶ月後に急性の構音障害と右片麻痺を発症しました。MRI検査で左前大脳動脈領域と中大脳動脈領域に高信号を認め、著明な低アルブミン血症とプロテインS活性の低下が確認されました。
タンパク漏出性胃腸症の診断後、免疫抑制療法を開始し、アルブミン値は徐々に改善しました。遺伝子解析でPROS1遺伝子の変異が見つかり、遺伝性プロテインS欠乏症と診断されました。
著者らは、タンパク漏出性胃腸症がプロテインS活性の低下を加速させ、脳梗塞を引き起こしたと推測しています。この症例は、タンパク漏出性胃腸症患者における遺伝性凝固障害の可能性を考慮する重要性を示唆しています。また、遺伝子評価が血栓塞栓症の予防に有用な情報を提供する可能性があることを強調しています。
16.Percheron 動脈の関与が疑われた両側視床梗塞に対して血栓回収を企図し血管造影検査を施行した1例.
臨床神経 2023;63:375-378.
大野成美、河野智之、木本和希、上野弘貴、野村栄一.
症例は 87 歳女性.主訴は意識障害,最終健常確認時刻から 1 時間 32 分で搬送された.来院時神経所見は両側瞳孔散大・対光反射消失,除脳硬直肢位,Babinski 徴候陽性であった.CTA で左後大脳動脈交通前部(P1)の閉塞が疑われ,脚部(P2)以遠は左内頸動脈から後交通動脈を介して描出された.MRI で両側視床梗塞を認め,P1 から分岐する Percheron 動脈閉塞を疑い t-PA を静注した.その後血管造影検査を施行し P1 の血栓回収を試みたところ自然再開通し,症状は改善した.脳底動脈が開存しているにも関わらず両側視床梗塞を認めた場合はP1 に着目し,血栓回収を企図して血管造影検査を検討する必要がある.
17. 'Raisin bread sign' feature of pontine autosomal dominant microangiopathy and leukoencephalopathy.
Brain Commun. 2023;5:fcad281. doi: 10.1093/braincomms/fcad281. eCollection 2023.
Kikumoto M, Kurashige T, Ohshita T, Kume K, Kikumoto O, Nezu T, Aoki S, Ochi K, Morino H, Nomura E, Yamashita H, Kaneko M, Maruyama H, Kawakami H.
「レーズンブレッドサイン」は、橋優性微小血管症および白質脳症(PADMAL)の特徴的なMRI所見です。橋に複数の小さな楕円形の梗塞巣が見られ、レーズンパンに似た外観を呈します。この研究では、PADMALの4人の患者でこの所見が確認され、COL4A1遺伝子の3'非翻訳領域の変異と関連していることが示されました。剖検でもこの所見の病理学的裏付けが得られました。レーズンブレッドサインは、PADMALの診断に有用な放射線画像所見であり、遺伝子検査の必要性を判断する際の指標となる可能性があります.
18. Detection of episodic nocturnal hypercapnia in patients with neurodegenerative disorders.
Sleep Breath. 2024;28:393-399.
Naito H, Sugimoto T, Kimoto K, Abe T, Ohno N, Giga M, Kono T, Ueno H, Nomura E, Maruyama H.
この研究は、神経変性疾患患者における間欠的夜間高炭酸ガス血症(eNH)と睡眠関連呼吸障害(SRBD)の関係を調べたものです。ALSやMSAの患者では、eNHの頻度が高く、特にALSで顕著でした。eNHはSH(睡眠関連低換気)よりも早期に検出される可能性があり、夜間経皮的CO2モニタリングが有用なバイオマーカーとして注目されています。eNHを持つ患者は、NPPV(非侵襲的陽圧換気)の導入が多く、死亡率も高い傾向がありました。この結果は、呼吸不全の早期発見と治療においてeNHの重要性を示唆しています。