お知らせ
脳卒中レジストリを用いた広島の脳卒中診療実態の把握(HARP Study)
目的
脳卒中は本邦における要介護原因疾患の第1位であり、重点的な対策が必要な疾患である。本邦における脳卒中の診療実態の把握は不十分であり、特に診療の質や患者の機能予後に関しては不明な点が大きい。全国的には脳卒中データバンク事業やJ-ASPECT研究などの疫学調査が行われてきている。本研究では広島における多施設での脳卒中診療実態の把握、脳卒中救急医療における課題、予後に関連する因子などを検討し、広島県における脳卒中診療の向上を目指すのを目的とする。
参加施設
広島市
広島大学病院(事務局)、広島市民病院,安佐市民病院、県立広島病院、翠清会梶川病院
2023年1月から参加
呉市
呉医療センター、中国労災病院
東広島市
東広島医療センター
福山市
脳神経センター大田記念病院
総登録数
2020年 7-9月 全脳梗塞322例(再開通療法41例 うち,tPA療法26例、血栓回収療法27例)
2020年 10月-12月 全脳梗塞341例(再開通療法54例 うち,tPA療法27例、血栓回収療法28例)
2021年 1月-3月 全脳梗塞357例(再開通療法51例 うち,tPA療法32例、血栓回収療法25例)
2021年 4月-6月 全脳梗塞415例(再開通療法56例)
2021年 7月-9月 全脳梗塞381例(再開通療法58例)
2021年 10月-12月 全脳梗塞381例(再開通療法58例)
2022年 1月-3月 全脳梗塞371例(再開通療法65例)
2022年 4月-6月 全脳梗塞393例(再開通療法62例)
2022年 7月-9月 全脳梗塞409例(再開通療法60例)
2022年 10月-12月 全脳梗塞418例(再開通療法68例)
2023年 1月-3月 全脳梗塞750例(再開通療法117例)(全8施設計)
2023年 4月-6月 全脳梗塞739例(再開通療法113例)(全8施設計)
2023年 7月-9月 全脳梗塞763例(再開通療法108例)(全8施設計)
2023年 10月-12月 全脳梗塞755例(再開通療法113例)(全8施設計)
HARP studyの論文
青木志郎,祢津智久,今村栄次,溝上達也,山下拓史,原 直之,松重俊憲,野村栄一,河野智之,廣常信之,越智一秀,仲 博満,木下直人,富永 篤,岐浦禎展,坂本繁幸,丸山博文.広島市における急性期脳梗塞症例の多施設前向き登録研究(HARP study).広島医学 2022;75:383-388.
祢津智久, 青木志郎, 石井大造, 今村栄次, 下村怜, 溝上達也, 山下拓史, 原直之, 松重俊憲, 野村栄一, 河野智之, 廣常信之, 越智一秀, 仲博満, 木下直人, 富永篤, 岐浦禎展, 堀江信貴, 丸山博文.コロナ禍における広島市の急性期脳梗塞の臨床的特徴と転帰—HARP study— 脳卒中, in press
兼好健太,祢津智久, 青木志郎, 石井大造, 今村栄次, 下村怜, 溝上達也, 山下拓史, 原直之, 松重俊憲, 野村栄一, 河野智之, 廣常信之, 越智一秀, 仲博満, 木下直人, 富永篤, 岐浦禎展, 堀江信貴, 丸山博文.院内発症脳梗塞の臨床的特徴と転帰 HARP study 脳卒中の外科, in press
HARP studyの学会発表
青木志郎ら:広島市における急性期脳卒中症例の多施設前向き登録研究(HARP study) 第24回中国四国脳卒中研究会 2022年9月
兼好健太ら:院内発症脳梗塞の臨床的特徴と転帰 HARP study Stroke 2023 第48回日本脳卒中学会学術集会 2023年3月
祢津智久ら:院内発症脳梗塞の転帰に関する活動性悪性腫瘍の影響: HARP study Stroke 2024 第49回日本脳卒中学会学術集会 2024年3月
阿部貴文ら:心房細動合併脳出血の臨床的特徴の検討: HARP study Stroke 2025 第50回日本脳卒中学会学術集会予定
Stroke Fast Passプロジェクト
Stroke Fast Pass (version 2)のPDF
印刷してお使いいただいても結構ですし、口頭で伝えていただいても結構です。
「こ・ま・め」のつけ方のPDF
脳梗塞の症状を劇的に改善するためには、閉塞した血管を速やかに再開通させる必要があります。血栓を溶解するtPAやカテーテルによる血栓回収療法といった再開通治療が確立され、発症から24時間以内であれば、一定の条件を満たせば再開療法を受けられる時代となりました。
病院の院内で発症する脳梗塞は、自宅など市中で発症する脳梗塞に比べ、発見から治療開始までに時間がかかり、むしろ予後が不良と報告されています。また同じ院内発症の脳梗塞であっても、脳卒中専門医が不在で、再開通療法ができない病院においては、転院等に時間を要するために、さらに予後が不良になる可能性が指摘されています。
広島市民病院では、自施設で発症する脳卒中に対する診療体制の改善に取り組み、図1のようなフローを作成し、24時間365日脳卒中チームが対応できる体制を整えました。この結果、2019-2022年の4年間においては全50名の院内発症の脳梗塞に対し、22名(44%)で再開通療法を行うことができました。
図1
一方、他院の院内で発生した脳卒中に関しては、2020年9月からの1年間で17名のご紹介に対し、発症から当院到着までが4時間以内が8名(47.1%)、再開通療法を行なったのは3名(17.6%)にとどまっておりました(図2)。
私たちはこの状況を改善したいと考え、2021年9月から他院の院内で発症した脳卒中に対し、速やかな転院と治療開始を目的として「Stroke Fast Passプロジェクト」をスタートしたました。「ことば/まひ/め」の異常のうち、2つ以上が当てはまれば、直ちに当院の脳卒中チームに連絡いただき、A4の「Stroke Fast Pass」一枚ですぐ受診いただけるように致しました。その結果、2021年9月からの2年間でプロジェクト参加病院(3病院)から25名を紹介いただき、19名(76%)が発症から4時間に到着、12名(48%)で再開通療法を行うことができました。一方同じ期間でプロジェクトに参加していない病院から21名を紹介いただきましたが、4時間以内の到着は11名(52.4%)、再開通療法は5名(23.8%)にとどまっております(図3)。
図2
図3
私たちは、他院の院内で発症した脳卒中に対しても適切な治療を提供したいと考えております。現在参加いただいております病院の皆様に感謝しますとともに、参加について興味をお持ちの病院におきましては、一度、脳神経内科の野村栄一までご相談いただければ幸いです。