対象医療と治療方法
頭頸部癌
1)早期声門部がん(喉頭がん)に対する放射線治療
声門部がんは頭頸部領域における最も頻度の高いがんです。声門部がんは腫瘍が小さいうちから嗄声(声がれ)が出現するため,多くの患者さんが早期がんとして発見され,根治的治療により長期予後が望めます。根治的治療の中でも放射線治療は高い局所制御率による喉頭温存,すなわち「人としての声を残す」ことが期待できることから,標準的治療として確立しています。早期声門がんはT1声門部がん(がんが声帯に限局)とT2声門部がん(がんが声帯を超えて上下方向に進展)に分類されます。放射線治療計画ガイドライン201年版では,T1声門部がんでは1日1回2Gy,“総照射線量60-66Gyを6-6.5週間”で照射,T2声門部がんでは“70Gyを7週間”で照射が標準治療と記載されています。そして,放射線治療によるT1声門部癌の標準的5年局所制御率は80-95%前後,T2では70-85%前後となっています。
早期声門部がんにおいて,局所制御を低下させる原因として“放射線治療期間の延長”があります。放射線治療期間を短縮することで局所制御率を向上できることも明らかにされており,むやみな照射期間の延長は避けなければなりません。最近は照射期間短縮を目的とした1回線量増加の有用性が示されており,当科では2010年よりT1声門部がんに対して1回照射線量を2.3Gyに設定し,“総照射線量64.4Gyを5.5週”で照射しています。観察期間は短いですが,現時点でのT1声門部がんの3年局所制御率は90%です。T2声門部がんに対しては,抗がん剤を併用することで局所制御率の向上を目指しています。頭頸部がんの放射線治療では,抗がん剤を併用した場合に局所制御への総照射期間の影響が少ないことが分かっています。早期声門部がん患者さんの多くは全身状態も良好で外来通院が可能ですので,内服抗がん剤(ティーエスワン)を併用しながら“総照射線量70Gyを7週”で照射しています。観察期間は短いですが,現時点でのT2声門部がんの3年局所制御率は100%と良好な結果が得られています。
参考資料
肺癌
1)早期非小細胞肺癌に対しては,線量集中性にすぐれた体幹部定位照射(ピンポイント照射)を行っています。
定位照射とは,高精度で高線量を病巣のみに集中させることにより,局所制御率の向上を図るとともに,周辺正常組織の有害事象軽減を図る照射方法です。従来の二次元照射では,正常肺の耐容線量を超えるために,局所制御が期待できる高線量を照射することが困難でした。そのため,局所再発率が高く,その治療成績は惨憺たるものでした。近年,放射線治療機器および放射線治療技術は目覚ましい進歩を遂げ,コンピュータを駆使した三次元放射線治療計画による線量集中性に優れた定位照射が可能となりました。現在,早期非小細胞肺癌に対する定位照射は急速に普及しつつあり,国内では良好な治療成績が報告されています。当科では,2011年より体幹部定位照射を開始し,高齢者や医学的理由(低心肺機能など)で手術困難な患者さんに体幹部定位照射での根治的治療を提供しております。
2)切除不能局所進行非小細胞肺癌に対しては,標準的治療である同時併用化学放射線療法(抗がん剤+放射線)を行っています。
現在,切除不能局所進行非小細胞肺癌の標準的治療は,抗がん剤と胸部放射線治療の同時併用療法です。放射線治療については,CTやPETで描出される原発腫瘍や肉眼的に見える転移リンパ節に加えて,画像上で転移を認めない顕微鏡的に見えるリンパ節(予防領域)を含めた広い範囲を照射する方法が標準的に用いられています。しかし,予防領域への照射に関する明確な医学的根拠は存在せず,長期にわたり慣例的に用いられているのが現状です。標準的な照射方法としては,1日1回1.8-2Gy,週5回照射による最低合計線量60Gyの照射が勧められています。しかし,標準的治療といえども満足できる治療効果が得られていないのが現状です。切除不能局所進行非小細胞肺癌においては,局所制御率向上が生存率改善に繋がることが知られていますが,広い範囲を照射する標準的照射方法では正常な肺組織や食道への照射体積が大きくなるために,局所制御が期待できる高線量照射は困難です。
2000年代には,予防領域への照射を省いて,原発腫瘍と転移リンパ節のみに高線量を照射する“病巣部照射野放射線治療”に関する後方視的研究や第I/II相試験による有用性,安全性を示した報告が相次ぎました。広島では,2004-2006年に県内の放射線治療施設が共同して“寡分割照射による病巣部照射野放射線治療”の予備試験を実施しました。本予備試験では,治療強度を高めるために1回線量が2.5Gyに設定され,総照射線量60-70Gy の照射が行われ,安全かつ有効性が示唆される良好な結果が得られました。米国では後方視的研究や第I/II相試験の結果を受けて,多施設共同第III相ランダム化比較試験(標準線量60Gy群 vs 高線量74Gy群)が実施されました。しかし,高線量群の生存率が標準線量群を有意に下回るという予想を裏切る結果が示されました。この結果に基づき,肺癌診療ガイドライン2014年版では,“病巣部照射野を用いた74 Gyの高線量照射は行わないように勧められる”と変更されています。
当科では,実際に参加した広島での予備試験の結果,我々の実臨床の経験などから,“病巣部照射野による高線量照射”は有効かつ安全であると考えています。切除不能局所進行非小細胞肺癌の放射線治療成績向上を目指して,当院倫理委員会の承認を得て“局所進行非小細胞肺癌に対する病巣部照射野での高線量寡分割照射の有用性に関する研究(第II相試験)”として実施中です。
3)限局型小細胞肺癌に対しては,同時併用化学放射線療法(抗がん剤+放射線)を行っています。
しかし,局所進行非小細胞肺癌と同様に,放射線治療成績にはまだまだ改善の余地があると考えられます。現在,限局型小細胞肺癌の標準的治療は,PE(CDDP+VP-16)療法と加速過分割照射による胸部放射線治療(1回1.5Gy,1日2回,総照射線量45Gy/3週間)の併用ですが,胸部放射線治療について至適な線量分割法・照射線量は未だ明確になっていません。こうした状況の中,線量増加の有用性を検討すべく大規模な第III相ランダム化比較試験が米国にて進行中です。
当院では治療成績向上を目指し,2011年より照射線量を45 Gyから54 Gyに増加しました。54 Gyへの線量増加は有害事象リスクの増加なく,安全に施行可能であり,45 Gyに比べ治療成績を向上させる可能性が示唆されました(限局型小細胞肺癌に対する化学療法同時併用加速過分割照射の後方視的検討―照射線量45 Gyと54 Gyとの比較― 松浦寛司 他,肺癌54 (7):930─936,2014)。この結果をもとに,当院倫理委員会の承認を得て“限局型小細胞肺癌に対する胸部放射線療法線量増加に関する第II相試験”を広島赤十字・原爆病院,県立広島病院,当院の三施設共同で実施中です。
参考資料
食道癌
同時併用化学放射線療法
参考資料
子宮頸癌
外部照射+腔内照射
外部照射単独
参考資料
前立腺癌
当院では,2008年4月より前立腺癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)を導入しております。前立腺癌では高線量を照射することで,治療成績が改善することが明らかにされています。従来の三次元原体照射では,高線量照射を行うと約20%の患者さんに止血処置の必要な直腸出血が生じるため,高線量の照射は困難でした。IMRTでは直腸出血の頻度を約5%まで軽減し,なおかつ治療成績向上が期待できるこれまで以上の高線量照射が可能です。
乳癌
乳房温存療法