最新鋭の高精度放射線治療統合システムを導入しました
近年の放射線治療における技術や機器の進歩は目覚ましく,その進歩がもたらした高精度放射線治療は急速に普及しつつあります。特にピンポイント照射(SRS,SRT),強度変調放射線治療(IMRT),強度変調回転放射線治療(VMAT),画像誘導放射線治療(IGRT)による治療成績向上および有害事象軽減が非常に注目されています。当院でも,高精度放射線治療に対応するべく最新鋭の放射線治療システム(図1)を導入し,2016年10月より稼働を開始しましたので紹介させていただきます。
今回,当院に導入したのは “Novalis Powered by TrueBeam STx”(バリアン社/ブレインラボ社製)で,高精度放射線治療装置 “TrueBeam STx”と画像誘導装置“ExacTrac”が融合した最新鋭放射線治療統合システムです(県内では3番目)。本システムは,「小さな腫瘍や複雑な形状の腫瘍に対して高度にフィットさせた照射野を作ることができる」,「高い出力性能を備えており,無駄な被ばくを抑えながらより短い時間で照射ができる」,「照射直前に腫瘍位置のずれを瞬時に計算し,サブミリメートルの誤差範囲で微調整を行うことができる」というアドバンテージを持っています。当院でもこれらのアドバンテージを組み合わせて,「小さな腫瘍から複雑な形状の腫瘍まで幅広く“がん”のSRS,SRT,IMRT,VMAT,IGRTが,より高精度に,より短時間に,より安全に実施可能」になりました。当院ではこれまでも既設の放射線治療装置で高精度放射線治療に取り組んできましたが,装置の機能やマンパワーの問題から,前立腺癌のIMRT,早期肺癌・脳転移のSRTに限定した高精度放射線治療しか提供できていませんでした。今回のシステム導入に合わせてスタッフ増員により体制を強化し,10月の稼働開始から頭頸部癌・脳腫瘍など少しずつですが,徐々に適応を拡大しているところです。今後は,入院患者さんをメインに高精度放射線治療を積極的に提供していきたいと考えております。
今回の高精度放射線治療統合システム導入と合わせて,多発性脳転移に対する放射線治療のために最新鋭放射線治療計画アプリケーション“Elements-Multiple BrainMets SRS”(ブレインラボ社製,図2)も導入しました(国内で3番目)。かつて,多発性脳転移の標準的放射線治療と言えば“全脳照射”という時代がありました。しかし最近は,画像で描出される脳転移病巣のみを治療する“ピンポイント照射”の役割も重要視されるようになり,多発性脳転移に対する放射線治療戦略のパラダイムシフトが起こりつつあります。実際に,当院においてもピンポイント照射で治療を行う機会が増えてきています。当院既設の放射線治療計画アプリケーションでは,多発性脳転移に対するピンポイント照射の場合,脳転移病巣を一個ずつしか治療計画できませんでした。そのため,脳転移病巣の治療個数に比例して治療計画時間が長くなるという問題がありました。今回,新規導入した“Elements-Multiple BrainMets SRS”では,10個までの脳転移病巣を同時に効率良く治療する(正常脳組織の線量を低減しつつ,腫瘍に線量を集中する)多軌道回転原体照射の放射線治療計画が短時間で自動的に作成できます。従来の方法と比較すると,治療計画に要する時間だけでなく,実際の治療時間も大幅に短縮され,多発性脳転移の有用な治療手段になり得ると期待しています。当院には,多くの脳転移患者さんが来院され,放射線治療をお受けになられます。適応となる脳転移患者さんには,“Elements-Multiple BrainMets SRS”による多軌道回転原体照射を積極的に提供していきたいと考えております。適応等につきましては,いつでもお気軽にご相談ください。
今回の高精度放射線治療統合システム導入で,これまで行ってきた高精度放射線治療よりハイレベルの高精度放射線治療を当院でも提供できるようになりました。今後は更に充実した放射線治療が提供できるようスタッフ一同努力して参ります。
図1 今回導入した最新鋭の高精度放射線治療統合システム“Novalis Powered by TrueBeam STx”
図2 多発性脳転移用の最新鋭放射線治療計画アプリケーション“Elements-Multiple BrainMets SRS”